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書籍名 『ウィーン・フィル 音と響きの秘密』(文春新書279) [amazon.co.jp で検索]
出版社名 (株)文芸春秋
著者名 中野 雄
[001] 2007/02/20 17:00:05 三田 守久
 古書店で冒頭部分をつまみ読みしたらやめられなくなって300円払って買ってしまった。

 ウィーン・フィルのベートーヴェンの「交響曲第九番」出だしの第二ヴァイオリンの六連音符が微妙にずれているのだが、これは指揮者のフルトヴェングラーの指示によるものか?などと書き出されたらもう手放せない。えーっ、そういうことなの?と思わず口に出そうになる。

 この質問は(かの有名な)丸山眞男氏が著者に発した質問だそうだ。著者は当時を知る楽団のメンバーにたずねたところ、それはまさしく「フルトヴェングラーの指示」であったそうな、、、。

 ふーん、そうなんだ。つまり上から下までの音をそろえるという指示ではなく、(明確に指示を口に出して言わなくとも)そのような音を意図的に作り出している、ということらしい。

 著者は音楽家ではないようだが、プロデューサーとして数々の演奏会やら録音やらに関係していて、ウィーン・フィルの多くの関係者へのインタビューをしながら話を進めていく。団員の直接の発言だから、普段、われわれ業界の外にいる人間では、聞くことのできないような、あるいは知りようのないことがらが続々登場する。

 久方ぶりに面白い本だった。

 冒頭のフルトヴェングラーの話は最後のほうでも出てきて、音楽の世界をアメリカがいかに席捲していて、いかに味気ない世界を作り出しているか、というかれの証言を紹介している。新世界での音楽は、冒頭に紹介したような演奏ではなく、「縦の音」をいかに正しくそろえるか、にばかり注意がいき、それをできるオーケストラや、譜面どおり正確に音の出せる演奏家ばかりが持て囃されることとなり、結果として無味乾燥の音楽が日々紡ぎ出される、ということなる。
 アメリカによるグローバリズムの動きは音楽の世界も例外ではないらしい。
 音楽コンクールなどでも点数を「正確さ」に対してどれだけはずれたかで、減点していくような方式がまかりとおる、というようなことになって表れているらしい。多少、音がどのようであろうと(ま、限度はあろうが)、聴き手を感動させることができた、なんていうのは問題外らしい。なんだかいまの日本の(偏差値)教育の現状を言い表しているような感じがする。

 ウィーン・フィルでは結局そうした形式的なことよりも内容をだいじにする、ということなんだろうなあ。わたしはこちらに軍杯を上げるかな。

 この本を読んで、邦楽の世界の話を思い出した。邦楽の世界には「見計らい」ということばがあるそうな、、、。いいですねえ。ウィーン・フィルもそういう世界なのかなあ。

[002] 2008/01/14 19:39:31 三田 守久
 先日、(多分)40年ほどまえのレコードが出てきたのでかけてみた。というのもフルトヴェングラーのウィーンフィル、ベートーベンの第九交響曲で1951年にバイロイト音楽祭が第二次大戦後に再開されたときのものだと謳ってあったからだ。

 素人鑑賞からの一言としてもすばらしく感じる。聴衆もフルトヴェングラーを待っていたのだろうか。迎える歓声も大きい。

 そういえば、と思い『ウィーンフィル音と響きの秘密』を探し出してきて冒頭部分を呼んでみたら、案の定、というべきか丸山眞男が疑問に思っていたのはこのレコードだった。書評のところでも書いたのだが、実際はこんな文章だった。

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・ ・・そのとき彼(丸山眞男)の手にはフルトヴェングラーの振ったベートーヴェン《第九交響曲》二枚組のLPレコードがあった。1951年7月29日、戦後初のバイロイト・ワーグナー祝祭開幕記念演奏会を収録したライヴ録音である。

 「《第九》の始まり、第一楽章最初の16小節ですがね。・・・トスカニーニの《第九》を聴くとこの六連音符がキチッと合っていて、ひとつひとつの音が明瞭に聴こえます。・・・
 ところがフルトヴェングラーの盤では、第二ヴァイオリンが揃っていないように聴こえる。・・・
 彼の指揮棒の動きは極めて独特で、出だしの合図がとても判りにくかったそうですから、棒のせいでああなってしまっているのか、それともフルトヴェングラーがはっきりとした意図をもってあのような指示を出していたのかーーー真相をどうしても知りたいんです。
 ぼくとしては、意図的だと思いたいんですが」
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 そうか、丸山眞男はこのレコードを聴いたのか、と改めて思った次第だ。

 このときの演奏会についての記述は、(やはり書評を書いた)『カラヤンとフルトヴェングラー』にも出てくる。歴史的な音楽祭だったのだな。

 それにしても笑えるのはレコードについていた帯に書いてあった「フルトヴェングラーの足音いり」の文句だなあ。


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