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書籍名 『ジャーナリズム崩壊』(幻冬舎新書089) [amazon.co.jp で検索]
出版社名 幻冬舎
著者名 上杉 隆
[001] 2008/08/27 14:24:13 三田 守久

 上杉隆氏に会ってみないか、とTさんが言うので、会ってもいいがべつにこちらからなにか用事があるわけでもないし、などと渋っていたら、まあそう言わずに、ということでそんな段取りをつけつつあるらしい。しかしどっちでもいいことだ。

 ただ著者の『官邸崩壊』は読もうと思っていたのだが、いまだに読めずにいるときにそんな話だったので、ともかくも著者の本にはすこしは目を通しておかねば失礼であろうか、とまずはこの本を買ってきた。

 なかなか面白い。

 しかしタイトルからすると、ジャーナリズムがこれまでは正常であって、いままさに崩壊しつつあるかのような印象になるが、内容はすでにずっとむかしから崩壊「してしまっている」ジャーナリズムに対する告発のようなものだ。そしてこのことは以前から言われていることで、著者が新しく言っているわけでもない。とくに目新しい視点はないが、あるとすれば著者がかって在籍していた『ニューヨークタイムズ』との比較であろうか。

 記述の、というか攻撃の中心は「記者クラブ」である。その閉鎖性、談合体質が問題であると大きな声で指摘している。また欧米の記事のほとんどが署名記事であるのに対して、日本の新聞のそれはそうでないことも責め立てている。日本においては、新聞にジャーナリズムはなく、むしろ週刊誌、月刊誌の雑誌のほうにこそ見られる、ということだそうだ。

 まあ反対する訳でもないし、むしろ賛意を表することに吝かではないが、そんなことはよくわかっている、という類いの記述だなあ。読者は意識しているにしろ、していないにしろ、じつはよく分かっている、と思う。つまり、日本の新聞は他人を攻撃(といって悪ければ批判)はするが、自らをその対象におくようなことはしないきわめて「ご都合主義」的体質であることを。そして、ときどき間違えることもあるが、週刊誌や月刊誌のほうが真相に迫っていることも。

 著者は、いろいろ言っているわりには、長野県の前知事田中康夫氏の記者クラブ廃止についてはほとんど触れていない。著者がいうようなことのほとんどは田中氏が言っているのだから、すくなくともそれへの連帯の意識ぐらいはあってもいいように思う。それとも承知していないのだろうか。また、東京都の(記者クラブを通過してべつの場で発表をするような試みである)記者クラブはずしについては若干触れているが、単なる報告でしかない。もうすこし言いようがあろうというものだ。というよりもうすこしやりよう(行動)があろうになあ。

 要するに、主張はいいのだが、文句ばかり言っていて、解決策は提示していない。一見、解決の方向を示しているような箇所もあるが、結局、一般論というか総論で「・・・べき」で終わってしまっているところがまさに「ジャーナリスト」なんだろうかなあ。

 気になったことはつぎの二点だ。

 著者は、
 「・・・地政学的、言語学的な障壁に守られて、安全な世界に引き蘢っているのが、日本のジャーナリズムなのだ。とりわけ、世界でほとんど通用しない日本語という『障壁』に守られているのは大きい。」
というが、それはコトの本質か?日本語が著者のいうようなものであるのはたしかであろうが、それに守られていることがそれほどに大きいと言ってしまっていいのか?それは単に結果であろう。それでは事態は解決しないのではないか?日本人であるかぎり、日本語はずっとついてまわるものであるし、そのような方向に原因を求める姿勢はまっとうには思われない。

 もうひとつは、著者はなにを信条としているかが、読者には伝わらない、ということだ。たしかにジャーナリストとしての心がけ、信念はわかる。だが著者がどういう感情をもって、なにを楽しく感じ、なにが悔しくて憤慨し、どういうことに悲しみを覚えるか、などはよくわからない。要するに、結局、ジャーナリスト「しごと人間」としか映らない。ジャーナリストであるまえに人間であることが伝わってこない。

 こういう物書き(つまり著者がいうところのジャーナリスと)としての態度は、私情は禁物なのであろうか、それとも自分の感情や考えは、取材においては目をつぶるべきものなのであろうか。自らの心情については、それはそれとして取材をおこなう、ということがじつは求められている姿勢ではないのか。

 とどのつまり、著者は、やや「片肺飛行」をしているように見える

 もちろん、著者の主張にはほとんど賛成である。

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